AI Agent で開発をしてると,デスクトップ環境とモバイル環境を行き来しつつ,隙間時間や移動時間を活用しつつ AI に指示を出し続けたりコードを調整したりするということをしたくなる.方向転換してしまったっぽいけどomnaraのようなプロジェクトや,@ryot_a_raiくんがやってた Tailscale + MagicDNS + siteboon/claudecodeui みたいなアプローチも良さそうだと思っていたがしっくりはきてなかった.
加えて AI で軽いツールや自動化などを簡単に作れるようになってもそれらをどこで動かすかという問題が未だにある.Web app 公開したり,Cron ジョブで定期実行させたり,Webhook 受けたりなどなど,デスクトップ PC だけじゃ完結しないやつ.インターネットに公開するとなるとドメインとか認証認可となりをちゃんと考える必要もある.仕事のしっかりしたやつなら Cloud Run なり k8s で頑張るけど個人レベルだったらそこまでやるのもだるいなあと思っていた (AI ツール開発の現場でこそ必要な「AI 以外の」技術選定 これは本当そうと思う).
そういうことを考えていた時に偶然読んだのが Josh Bleecher Snyder のJust in time softwareというブログ記事.スーパーで買い物してるときにその場でショッピングリストアプリを開発したという話で,そこで使われていたのが exe.dev というサービスだった.ぱっと見は VM Hosting サービスで 2026 年にもなって VM Hosting?と思ったが,作ってるのが Tailscale の元 CTO のDavid Crawshawということもあり,詳しく見てみたらなかなか良く,ちょうど自分が欲しいなあと思っていたものだった.
exe.dev とは
公式の Doc はまだちょっと分かりにくいが,一言でまとめると「簡単かつセキュアにアプリを公開できる AI Agent つきの VM Hosting サービス」.Pricing的には$20/month で 25VM (2CPU + 8GB RAM を共有する感じ)からスタート.定額で環境を複数作れるというモデル.
ssh exe.dev で VM を立ち上げると, Public IP ではなく専用のドメインvmname.exe.xyzが付与される.デフォルトはexeuntuイメージが動いるが,コンテナイメージであればなんでも動かせる.基本は普通の VM Hosting サービスと変わらない.その VM 上で動く専用の AI Agent であるShelleyとのチャットを専用のポートで開けるようになってるのが最近っぽい.近年の Serverless 環境とは違いディスクは Persist されるのでその場でいろいろインストールしても保持されるし SQLite とかも動かせる.立ち上がりは非常に速く,とりあえず起動して AI と話しつついろいろ試してみて不要になれば捨てるみたいなことが簡単にできる.
VM 環境に加えてやってくれることとしては
- HTTP Proxy:
vmname.exe.xyzへのトラフィックを VM にプロキシしてくれる.TLS 証明書の発行・管理を自動でやってくれるので開発者はポートで待ち受けるだけ.デフォルトはプライベートで Email 認証したユーザだけがアクセスでき,公開したければコマンド一発もしくは Web コンソールで切り替えられる.自分のドメインを VM に向けることもでき,CNAME レコードを設定するだけで、TLS 証明書も自動発行. - Login with exe: exe.dev の認証システムを自分のアプリでも使える.認証されたユーザーには
X-ExeDev-Emailなどのヘッダーが付与されるので自分でパスワード管理せずに認可を実装できる.
内部のアーキテクチャも軽く書いてあるけど現状はKata Containersがベースっぽい.
使ってみて
個人の自動化で Webhook を扱いたかったので,実際に exe.dev に環境立てて Go でサーバー立てて公開するところまでやってみた.
基本は一緒についてくる AI Agent である Shelley と Chat して Vibe coding 的に実装する感じ.Shelley の画面上でdifitのように GitHub UI でコードチェックしてコメントできるようになっていたり,同じチームが作ってる AI coding ツールのsketch.devと同じく Chromium の Headless がおそらく動いてるので Web ページのスクショとって確認みたいなこともやれる,のでほとんど全ての開発実装がそこで完結できるようになっている.必要なら VSCode の SSH 機能で直接繋いでコード書くこともできる.
ちなみに Claude とか Codex も最初から入ってるので Shelley を使う必要は別になくて好きな AI Agent を動かしておける環境としても使うことができる.自作 MCP とかいまだにモバイル App 経由で使えないのでここで動かそうかなと思っている.
Shelley 自体が上で書いたような exe.dev のインフラの仕組みを理解してるので,どうサービスを公開するかなどのインフラの設定は勝手にやってくれる.何も指定しないと Systemd でデーモン化して期待する Port で Listen して Journald でログとって勝手にデバッグする.コード書き直すと再起動してくれる.Docker Build なり Push なりもなくその場でリロードして終わりってのは気楽で良いなってなる.何より速いしね.
モバイル環境からもアクセスできるので PC とモバイルで行き来して開発するのも楽にでき,隙間時間をうまく活用するという本来やりたかったこともできた.モバイルだと Passkey をサポートしていてサクッとログインできるのもなかなか面白く,AI Chat は音声入力もサポートしてるので,モバイルは前提になってそう.
まだ試せてないけど VM 環境自体は Google doc みたいに Email 経由で共有することもできる.ので,飲み会なりの集まりで出てきたアイディアに対してその場で VM 立てて皆んなで開発するといったユースケースも考えられている.
まとめ
AI によりコーディングのコストが下がったことに対して,じゃあそれらをどこで安全に動かすのか?という問いに対する良い解だなあと (VM Hosting なのである程度 Linux 的な知識もいるので基本はまだエンジニア向けにはなりそうだが…).Vibe Coding 系のサービスと比べると VM による自由度と柔軟性が良く,クラウドの VM 環境とかと比べると公開と共有までの容易さと素早さがある.
インフラの流れという観点だと PaaS から k8s になりその複雑さの揺り戻しはあるだろうなあと思っていたが exe はその一つの感じする (本番サービスを動かすという感じではないが...).とはいえネットワーク周りなどは PaaS 的な良さはあって,それ以外の部分は VM の自由度があって好き勝手は試せるが,いざちゃんと動かす時は AI 経由で Systemd なりの設定はやれちゃうからは気にする必要はないというバランス感がある.
技術要素的には新しさはないが,基礎技術を組み合わせながら,AI というピースをうまく入れ込んで VM Hosting サービスを再考した感じ.NoSSH とか言ってたけどまた SSH するようになるとは思わなかった.まだどうなるか分からんが可能性はいろいろありそうだなあと.
環境的にはぶっ壊れても良いし捨てられるのでとりあえずアイディアを実装したり,個人のための自動化なりを動かしておく,まさに Just in Time Software のサービス,AI 時代の VM Hosting サービスとしてとても良い方向性だと思うので持続して欲しい.